【語源100話(94)】「科目」も「被験者」も「主観」も何かの“支配下”にある?subjectの語源がすべてをつなぐ
「subject」という英単語には、「科目」や「被験者」といった意味もある。これらの用法は一見バラバラに見えるが、語源に遡ることでその共通点が浮かび上がる。どちらも「ある枠組みや目的のもとに置かれた存在」であるという点で、じつは語源的に一貫したイメージを持っているのだ。
まず「科目(subject)」という意味から見てみよう。たとえば、「数学は私の得意な科目だ」というときの「科目」は、英語で subject と訳される。なぜ「subject=科目」になるのか。これは、教育という体系的な知識の枠組みにおいて、それぞれのテーマ(=subject)が「学ぶ対象」「扱うべき内容」として“設定された”ものであるからだ。つまり、「教育という上位のシステムのもとに、テーマが“置かれている”」という構造がここにはある。
このイメージは語源に忠実である。前述のように subject の語源は sub(下に)+ jacere(投げる)=「下に投げる」「支配下に置く」である。教育の枠組みの中に「投げ込まれたテーマ」がsubjectであり、それを受け取って学ぶ我々もまた、教育という制度の“支配下”にある存在だとも言える。
一方、「被験者(subject)」という意味では、科学実験や心理実験の文脈で使われる。たとえば、”The subjects were given a placebo.”(被験者にはプラセボが投与された)といった表現が典型的だ。この場合のsubjectは、「実験の枠組みの中で、外部から操作・観察される存在」である。つまり、自ら能動的に行動するというよりは、「研究という大きな意図のもとに置かれ、影響を受ける存在」である。
ここでもやはり、subjectの語源的イメージがそのまま生きている。実験という構造の中に「投げ込まれ」「観察される立場にある」という意味で、被験者はまさにsubjectそのものなのである。
これらを総合すると、「科目」と「被験者」という一見異なる意味も、subjectという単語の中核――「上位の構造に置かれ、ある目的のもとに注目・制御される存在」――によってつながっているとわかる。subjectとは、自由な存在ではなく、常に何かの影響下、支配下、構造の中に位置づけられた“対象”なのだ。そう考えると、「subjective(主観的)」という言葉が、「自分の意識の支配下にあるもの」を意味するのは、まさに語源的必然である。
こうした視点で英単語を捉えると、単語の多義性が「バラバラの意味の寄せ集め」ではなく、「一つの語源から広がった意味のネットワーク」であることが見えてくる。それが英語学習の面白さであり、記憶の助けにもなるだろう。