イノベーションブームに辟易とする人々へ

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イノベーションがブームなって久しい。日本では経営不振に喘ぐ経営陣がブームを利用し、ただでさえ限界まで働いている社員にクリエイティビティを求める。「会社のために何か新しい物を生み出せ」と絞り出させる。

そんな状況に辟易としている人も多いだろう。英語でこんなことわざがある。nothing new under the sun(太陽の下に新しいものなどない)。実際に使う時は、There isをつけて、There is nothing new under the sun.にしたり、as the saying goes,(ことわざが言うように)をつけて、As the saying goes, there is nothing new under the sun.などと言える。

由来は聖書の一節。

What has been is what will be, and what has been done is what will be done, and there is nothing new under the sun.
Ecclesiastes 1:9

これまでそうだったものはこれからもそうであり、これまでなされてきたことはこれからもなされるであろう。太陽の下に新しいものなどない。(伝道の書(コヘレトの言葉)、1章9節)

もちろんこれは新技術を否定する言葉ではない。ただ、時代は変わろうが、人間や歴史の本質は変わるものではないという真理をついている。この格言の前には、最近のイノベーションブームは限りなく軽薄で、枝葉末節に見えてくる。

真のイノベーターはこの言葉を大切にし、人間の本質に迫っているからこそ、画期的なユーザー体験を生み出せるのかもしれない。シェークスピアの作品が今も色褪せないのも、この人間の本質を突いているからだ。経営陣は社員や顧客の人間としての本質をもっと理解しなければ、思い描く成果はいつまでも上がらないだろう。

まさに温故知新。History has a lot to teach us.である。

聖書のように長い時間を扱う科学である地質学(geology)にも、似たような言葉がある。uniformitarianism(斉一説、斉一過程)という考えだ。「今起きていることは過去にも起きていたし、未来も続く」という基本的な考えで、これを仮定することで地層の解釈が初めて可能になる。その結果、人類が将来、絶滅する可能性も予測できるようになるわけだ。

Nothing new under the sun. Respect people in front of you. (本当に新しいものなんかない。目の前の人を大切にしな)。

社員を見ずに軽薄なイノベーションを進める経営陣には、こんな言葉をかけたいものである。

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