【語源100話(85)】南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)の英語の正式な言い方とトラフの語源は?Nankai Trough Earthquake Extra Information (Megathrust earthquake attention)

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気象庁は2024年8月9日、日向灘で起きたM7級の地震を受け、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を初めて発表した。地震の専門家が緊急会合を開いて検討した結果、日向灘のM7級の地震が「南海トラフ巨大地震の想定震源域」付近で起きていたことなどから、19年の制度本格導入以来初の発表に踏み切った。一部では買い占めなどの混乱が起きているようだが、全体的には冷静な受け止めとなっている。それでも、日本語が分からない方々にとっては何が起きているかよく分からず、不安が大きいだろう。今回はそうした方々の不安を和らげる一助にしてもらうために、気象庁による正式な英語表現を紹介する。正式名称を知っていた方が正しい情報にアクセスしやすくなると思う。

以下、気象庁の2022年のパンフレットから引用する。気象庁による正式英訳というわけだ。

まず、「南海トラフ地震臨時情報」の英訳は、Nankai Trough Earthquake Extra Informationとしている。

「南海トラフ地震臨時情報」の説明は

If anomalies are detected along the Nankai Trough, Nankai Trough Earthquake Extra Information is issued with a keyword below in the line with the relationship with a major seismic event.

「南海トラフ沿いで異常が検出されたとき、南海トラフ地震臨時情報は巨大地震との関連に応じて下記のキーワードとともに発表される」。その説明通り、臨時情報の後ろにつく(巨大地震注意)というのは臨時情報を補足するキーワードという位置づけである。では、キーワードをみてみよう。

Keywords, condition

Under analysis, When analysis is underway to determine whether anomalies relate to a Nankai Trough Earthquake.

まずは、Under analysisというキーワード。これは「調査中」を訳したものだ。今回の場合、日向灘でM7級の地震が起きた直後、専門家による評価検討会が招集され、緊急会合を行った。その間、「南海トラフ地震情報(調査中)」が発表されていた。結果が出るまで最大2時間、この「調査中」が発表された状態になる。

今回、その2時間弱の「調査中」を経て発表されたのが「巨大地震注意」というキーワードだ。

Megathrust earthquake attention, When an earthquake with a magnitude of M7.0 or more or an anomalous slow slip is considered to have occurred along the Nankai Trough (except in correspondence with a megathrust earthquake alert).

英語では、Megathrust earthquake attentionとされる。英訳された説明文を読むと、発表の条件は「南海トラフ沿いでM7以上の地震か異常なゆっくり滑りが起きたとき」とある。まさに今回はこれに当たる。つまり、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」の英語の正式な言い方は「Nankai Trough Earthquake Extra Information (Megathrust earthquake attention)」ということになる。

今回の「巨大地震注意」よりさらに切迫した状況がある。

それが「巨大地震警戒」という状態だ。

Megathrust earthquake alert, When an earthquake with a magnitude of 8.0 or more is considered to have occurred at the plate boundary in the hypocenter area along the Nankai Trough.

英語ではMegathrust earthquake alertという。条件は「南海トラフ地震の想定震源域のプレート境界でM8以上の地震が起きたとき」とされる。これは、南海トラフ沿いの大地震が一気に全て連動して起きるのではなく、いわゆる南海地震や東海地震など南海トラフ巨大地震のいわばメンバーといえるM8級の大地震が時間差で個別に起きるケースを想定している。今回はこれには相当しない。

最後に「調査終了」がある。

Analysis complete, When the results of analysis indicate that the anomalies are not classified into either megathrust earthquake alerts or megathrust earthquake attention output.

これはそのままAnalysis complete。説明文をみると「検討の結果、巨大地震警戒にも注意にも当てはまらない場合」とある。今回は1週間ほど経過した後、専門家の会合が開かれ、この「南海トラフ地震臨時情報(調査終了)」が発表されて、一連の対応が終息することが予想される。

まとめてみよう。

Nankai Trough Earthquake Extra Informationには4つのキーワードがあり、カッコ書きで付け加える。

  1. Under analysis(調査中)
  2. Megathrust earthquake attention(巨大地震注意)
  3. Megathrust earthquake alert(巨大地震警戒)
  4. Analysis complete(調査終了)

2番目が注意(attention)を促す情報、3番目が警戒(alert)を発する情報であり、今回は2番目が発表されている。

調査終了が出るまでの間は、普段より防災意識を高め、もし地震が起きたらどうするかをよく考えながら日常生活を送ることが求められる。

不安に思っているNon Japaneseの友人知人がいたら、次のように声をかけてあげてほしい。今回の臨時情報への対応はこれに尽きるのではないだろうか。

Even with this information, the fact remains that earthquakes cannot be predicted. It is important to raise disaster awareness more than usual and remain calm in daily life.

(この情報があっても、地震が予知できない事実は変わらない。普段より防災意識を高め、冷静に日常生活を送ることが大事だ)

最後に、南海トラフのトラフ(trough)って何だろう?って思いませんか。troughは日本語で「舟状海盆」といい、底が平らなボートのような形をしている海底のことを指す。古英語のtrog(トログ、底が平らな舟・カヌー)が語源。さらに、小舟は堅牢な木材で作る必要があったから、trogは接頭辞deru-(硬い、頑丈な)に由来する。deru-を語源に持つ単語はほかにも、endure(耐える)、durable(耐久性のある)、trust(信頼する)などいずれも硬さや頑丈さに関係する意味を持っている。

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