【語源100話(35)】傍若無人なfilibuster(議事妨害)
filibuster(フィリバスター)は「議事妨害」のことで、米国上院(Senate)の議事妨害がよく知られる。民主主義の下、議論を尽くすことを尊重するため、法案に対する討論の時間を無制限に認めるという上院のルールを逆手に取って、延々と意見を述べ、採決を妨害する行為である。広い意味で日本の「牛歩戦術」もfilibusterと呼ばれることがある。ちなみに、過去に1人の上院議員がfilibusterのために使った時間の最長記録は24時間18分という。
無制限の討論は現実では民主主義の理想と乖離し、野党議員のfilibusterによる議会のgridlock (機能不全、麻痺)を招いた。結果、上院議員100人のうち60人が賛成すれば、討議を打ち切ることができる規定(cloture、クロウチャー)が1975年に新たに設けられ、今に至っている。最近、このフィリバスターと60人ルールを巡り、米国議会とジョー・バイデン大統領がニュースに登場することが増えている。
道路や橋梁などのインフラの老朽化や再構築は日本に限らず米国でも問題になっている。その解決に力を入れたいのが民主党のバイデン政権。財源には法人税を充てるつもりだ。インフラ問題は野党共和党の議員も重要性を認める一方、トランプ政権時代に法人税減税を実現した共和党の議員にとっては、法人税増税につながるバイデンのインフラ投資計画には賛成しにくいジレンマがある。目下の注目は、filibusterを防ぐためにバイデン民主党が共和党の穏健派議員10人を確保できるかどうか。というのも、上院の議席は現在、民主党50議席、共和党50議席で、民主党がfilibusterを防ぐclotureを発動する60人を集めるには共和党から10人を持ってこないといけないのである。
採決は7月21日に予定されていたが、filibusterを防ぐ民主党の努力は今のところ失敗している。採決は26日にも再度行われる予定だ。
filibusterの語源は、もともとオランダ語のvrijbueter(海賊、略奪者)。freebooter(海賊、略奪者)という言い方もある。ちなみに、略奪した戦利品のことをbootyという。フィリバスターは、傍若無人に略奪を重ねる厄介者のイメージというわけである。
The Daily Utah Chronicleのコラム「Brown: Abolishing the Filibuster Won’t Fix the Senate」がフィリバスター問題の解決策について書いていて、興味深い。自分の意見を述べるときのお手本のようなコラムになっているので、試験や英検、面接、英作文などの参考にもなる。とりわけ気になった部分をメモ。
The issue is not the process itself, but the increasing partisanship we see in the Senate. To say we need to fix political polarization is obvious, yet admittedly idealistic. Partisanship is not easily reversible, and the U.S. Senate surely won’t be fixed overnight. But that doesn’t make it any less important. Setting a long-term goal of increasing bipartisanship will greatly increase the Senate’s efficiency, far more than abolishing the filibuster ever could.
(A) is not easily reversible, and (B) surely won’t be fixed overnight. But that doesn’t make it any less important.
「Aは簡単に戻るものではないし、Bも一夜で修復されるものではないが、(かといって)その重要性が下がるわけではない」。AやB、reversibleやfixedを他の単語に変えれば、容易に自分の文に取り込めそうだ。
Truthfully, there’s no easy fix to the Senate’s efficiency problems. While abolishing the filibuster may sound like the way to get senators working again, it actually presents a major long-term issue for the American government. The problem with the Senate is mostly not one of procedural flaws, but rather personnel incompetence. If senators are unwilling to work with each other, we will continue to make no progress.
The problem with (A) is mostly not one of procedural flaws, but rather personnel incompetence.
「Aの問題は手続き上の瑕疵ではなく、個人の資質の問題である」。これはいろいろな政治や社会の問題を考えるとき、言いたくなるセリフかもしれない。仕組み自体は悪くないが結局は個人の資質の問題に尽きる、と言いたくなることは多い。
Minor structural changes to Senate procedure could speed up the process to a point, but in the long run, the Senate and U.S. have three choices: They could continue down this road of inefficient policymaking, they could abolish the filibuster and send us down an even more partisan path, or they could start on the path of healing and bipartisanship. I choose the third because after all, we are — or at least we’re supposed to be — the United States of America.
選択肢の列挙は、自分の意見を言いたいときに、それを演出する方法として秀逸なテクニックとなる。「~には3つの選択肢がある」と言っておき、3つの選択肢を述べる。上の例の場合、仮定の話なのでcouldを使って3つの選択肢を列挙している。最後に、I choose the third because ~(私は三つ目を選ぶ。なぜなら~)と締める。こうしたテクニックを身に付けておくと、面接でも作文でも、簡単に文章を分厚くできる。こうしたテクニックがあれば、単純にI think ~などとあっさり意見を述べて締めることがもったいなく思えてくる。3つの選択肢は背伸びする必要なんかなくて、本当に薄~い内容でもいいのだから。英語の上達には、実はこうした修辞テクニックが欠かせないのだ。
最後に、このコラムの締めは痺れますね。 I choose the third because after all, we are — or at least we’re supposed to be — the United States of America.