【語源100話(83)】移動することは譲ることでもある。悲哀がこもった「concede(カンシード)」
スマートフォンにNew York Timesの速報が入った。”Breaking news: Rishi Sunak concedes U.K. election to Labour Party”.とあった。なになに?スナク首相が英国の選挙を労働党にconcedeする?concedeは重要単語である。concedeの語源を紐解き、この機会にそのまま覚えてしまおう。
concedeは「譲歩する、認める、敗北を認める」という意味を持つ単語だ。選挙の文脈では、敗北を認めて相手の勝利を祝福する行為を指す。
concedeは、接頭辞のcon-と語根のcedeから成り立っている。con-は「一緒に、完全に」を意味し、cedeは「行く、譲る」という意味を持つ。つまり、concedeは「完全に譲る」という原義を持つのだ。
このcedeという語根は、他の馴染み深い単語にも顔を出す。例えば、precedeは「先立つ、前に行く」という意味だ。pre-(前に)とcedeが組み合わさっているのがよくわかる。また、proceedは「進む、続行する」。pro-(前へ)とcedeの組み合わせだ。recessは「後退する、休憩」という意味で、re-(後ろへ)とcessus(cedeの変形)から来ている。
cedeは「行く」という意味だが、同時に「譲る」という意味も持つ。これは、古代の領土争いや交渉の場面を想像すると理解しやすい。敵の軍隊が攻めてくるとき、自分たちは「行く(退く)」と同時に、その土地を「譲る」ことになる。この二つの意味が重なり合って、cedeという語根の意味が形成されたのだろう。
あえて俗っぽく言えば、休みの朝、リビングでテレビを見ていたお父さんが後から起きてきた娘に「そこどいてよ」と言われ、ちょっと端に避けてはみるものの、娘は視界に入ることすら嫌らしく、「あっちの部屋行ってよ」と言われ、しぶしぶ隣の和室にcon(完全に)+cede(移動する)、つまり、conceded to his daughter(娘に譲歩する)という意味が生じる訳である。
現代社会において、concedeという行為は民主主義の成熟度を示す重要な指標となっている。選挙で敗北した候補者が速やかに結果を認め、勝者を祝福する。これは単なる儀式ではなく、平和的な政権交代と民主主義の継続性を象徴する重要な行為なのだ。
ちなみに、cedeに関連する単語には他にもaccede(同意する、就任する)、secede(分離する)などがある。accede(ac-はad-「~へ」の変化形)は「~へ行く、近づく」から「同意する」という意味に、secede(se-は「離れて」)は「離れて行く」から「分離する」という意味に発展した。
言葉の世界は本当に奥が深い。一つの語根から、こんなにも多様な意味を持つ単語が派生している。concedeを軸に、関連する単語群を覚えてしまえば、英語の語彙力は一気に広がるだろう。
次に新聞やニュースでconcedeという単語を目にしたとき、きっと違った目で見ることができるはずだ。単に「敗北を認める」という意味だけでなく、そこに込められた「完全に譲る」という語源的な意味や、民主主義における重要性まで想起できれば、ニュースの理解はより深くなるだろう。