【語源100話(57)】aestheticとエステと聴衆の関係

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aestheticは日本語になっているエステの由来。読み方を無理やりカタカナで書くと、「エスティック」となる。日本語のステのアクセントは最初のエにあるが、英語のAestheticのアクセントはエスティックとセにくる。the(セ)は舌を軽くかんで発音する。

aesthetic (エスティック) は、名詞の場合は「美学」「美意識」、形容詞では「審美的な」「美的感覚のある」という意味になる。ちなみに「審美的」とは、美的感覚を重視していることである。

このaesthetic(エスティック)はもともと、「感じる(I feel, I perceive)」が語源。頭に付いた「a」は接尾辞のau-が変化したもので、to perceive(知覚する、感じる)の意味。後ろのstheticは「物」を意味する。thing(事、物)の仲間だ。つまり、aestheticの原義は「感じるもの」となる。

昔の人も何かを感じたいときには、まず目を閉じ、耳を澄ませたのかもしれない。au-が付いた単語で有名どころにはaudio(オーディオ、音の)が挙げられる。みんなで感じ合って盛り上がる場所がauditorium(オーディトーリアム)=「観客席」「講堂」。盛り上がる人々はaudience(オーディエンス)=「観衆」となる。

否定のaを付けて「知覚しない、感じない」にしたものが、aesthesia(アネスシージャ)=「麻酔」である。

aesthete(スシート)で、「センスのいい人」「美的感覚のある人」の意味になる。アンドリュー・ランキン(Andrew Rankin)の著書「Mishima, Aesthetic Terrorist: An Intellectual Portrait」の中に、三島由紀夫を称したこんな一文がある「He is an aesthete for his worship of beautiful things and his obsessive cultivation of his senses.」。タイトルの「Aesthetic Terrorist」もなかなかな表現だ。

ちなみに、R言語のggplotでは、グラフの描画にaesという引数がある。これはaestheticに由来している。統計学者のリーランド・ウィルキンソン(Leland Wilkinson)が提唱した「The Grammar of Graphics」という概念を実装したのがRのggplot2パッケージであり、グラフの構成要素を順を追ってレイヤーに追加していくことで、より迅速に、より簡単に、より美しいグラフを描けるようになる。それによってユーザーはグラフの描画に神経をすり減らすことなく、本来のデータ分析に専念できる。効率性を突き詰めることは美意識を突き詰めることにもつながるといえる。

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