【語源100話(98)】「diagnose」の切れ味──AI-agnosticとの対比で見えてくる知のフレームワーク

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diagnoseダイアグノース)という単語は、医療や機械トラブルの文脈で頻出する言葉であり、「診断する」「原因を突き止める」といった意味を持つ。しかし、この言葉の本質は、単に何かの不調を指摘することではなく、「物事の背後にある構造やメカニズムに光を当て、それを言語化する試み」である。

今回diagnoseを取り上げるきっかけになったのが、AIをより便利にするMCP(Model Context Protocol)について学んでいるときに見かけたAI-agnosticという表現だった。agnostic(アグスティック)は「不可知論的な」「特定の信仰を持たない」といった意味で使われることが多いが、AI文脈でのAI-agnosticとは、「特定のAIに依存しない」「どのAIでも使える設計思想」を示す。つまり、「特定の正解や機序を前提としない、柔軟かつ抽象的な設計」というニュアンスが含まれている。

一方、diagnoseはその対極にある語感を持っている。語源はギリシャ語の「dia(通して、対角線上に)」+「gnosis(知ること、認識)」で、「通して見抜く」「詳しく見て知識に変える」という意味合いがある。すなわち、diagnoseは「何かを特定の知識体系に照らして分類・識別する行為」であり、そこにはある種の決めつけ、あるいは「ラベル化」の動きがある。ここまで分かれば、否定を意味する接頭辞a-が付いたagnosticの意味も分かる。agnosticが意識的に「特定の枠組みに依存しないこと」を強調するのに対し、diagnoseはまさにその「枠組みを適用する行為」そのものである。

この対比は、単語のイメージの奥行きを理解するうえで非常に示唆的だ。diagnoseの持つ「鋭く切り込む、明確にラベリングする」感覚は、ネイティブスピーカーにとっても「冷静に、論理的に物事を解き明かす行為」として捉えられている。医師が症状を聞きながら「I need to diagnose this case carefully(この症例は慎重に診断する必要がある)」と言うとき、そこには知識と経験、そして一定の判断基準が前提となっている。

面白いのは、diagnoseが近年では医療だけでなく、ソフトウェア開発やビジネス分析の文脈でも頻繁に使われるようになってきている点である。たとえば「We need to diagnose the root cause of the system failure(システム障害の根本原因を診断する必要がある)」のように、問題の背後にある構造を明らかにし、対処の方針を立てる行為として定着している。「システム診断」なんて言葉はよく聞きますね。社会問題のことを”現代社会の宿痾”なんて言ったりするので、時事問題のスピーチでも前述のwe need to diagnose the root cause of 〜という表現は便利そうである。

閑話休題。diagnoseの類語としては、identify(特定する)、pinpoint(正確に指摘する)、determine(決定づける)などが挙げられるが、diagnoseには「専門的知識に基づいた分析・解釈」の重みがある。

AI開発の文脈でdiagnose(diagnostic)とagnosticという言葉が併存すること自体が、現代の技術と設計思想の両面を象徴しているように思えるのが面白い。自分の好きな英語と技術それぞれの交差点的な話題で思わず長くなってしまいました。長文お付き合いいただき、ありがとうございました。ではまた。

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