【語源100話(96)】covet の誘惑──ただの“欲しい”じゃ済まされないジャイアンみたいな欲望
英単語 covet(カヴェット) は、日常英会話ではやや文語的で、強い欲望や羨望の気持ちを含んだ動詞である。2026年1月7日のNew York Timesの記事で「Mr. Trump has coveted Greenland since his first term.」と使われていた。トランプ氏が大統領初任期からグリーンランドを「欲しがっていた」「手に入れたがっていた」という意味になる。
この「covet」は単なる「欲しい」ではない。その背後には、他人のものをうらやみ、あわよくば自分のものにしたいという、かなり強く、場合によっては不適切とも取られかねない欲望が潜んでいる。まるでジャイアンのように。
語源をたどると、covet はラテン語の cupiditas(欲望)に遡る。この語は「愛」や「欲望」を意味する cupere(欲する)から来ており、「欲望の神」キューピッド(Cupid)と同じ語源を持つ。そこから古フランス語 covetier(強く望む)を経て、英語に定着した。covetが「欲しい」とはなかなか覚えにくいと思うが、欲望の神キューピッドと同じ語源だと思うと途端に覚えやすくなるのではないだろうか。
興味深いのは、聖書におけるこの単語の使用例である。十戒の中にある「汝、隣人の妻を欲してはならない(Thou shalt not covet thy neighbour’s wife)」という戒律において使われている “covet” は、まさに他人のものであると知りながら、それを強く欲する心を戒めている。つまり「covet」には、倫理的な境界線を踏み越える可能性を含んだ、危うい魅力がある。
単に「欲しい」や「望む」といった意味の言葉との比較もしておきたい。
まず、want は最も一般的でニュートラルな「欲しい」を表す語であり、何かを必要とするときにも使える。
desire は文学的・感情的な重みが加わる。「強く望む」という意味ではあるが、少し上品で抑制されたニュアンスも持つ。
yearn や long for は、手に届かないものを切望するイメージ。郷愁や悲しみを伴うことが多い。
それに対して covet は、「自分のものでないもの(特に他人の所有物)」に対して、道徳的な一線を越えるほどに強く欲しがる、という濃密な欲望を含む。したがって、文脈によっては「欲深さ」「嫉妬」「不道徳」といった負の感情を暗に含む場合がある。
ネイティブスピーカーの感覚では、covet という語は「おいそれと口に出せない強欲さ」や「抑えきれない羨望」を感じさせる。このため、文学作品や政治的レトリックなどで、強い感情を込めて用いられることが多い。
トランプ氏がグリーンランドを “covet” したという文は、単に関心を持ったというレベルではない。あたかも他人の土地を「自分のものにしたい」と強く望み、その欲望が政策レベルにまで現れている、という皮肉や批判をNew York Timesの記者が込めて表現したのだろう。そこまで知ると、新聞記事の真の面白さに迫れる気がする。
このように、covet という単語を使うことで、話者の意図や態度が強くにじみ出るため、使い方には十分注意が必要だ。しかし、逆に言えば、この一語で「禁断の欲望」や「羨望による行動の動機」といった複雑な感情を表現できる、非常に印象深い語でもある。