【語源100話(92)】megalomania(メガロマニア)とmegalovania(メガロバニア)の関係は?壮大な「誇大妄想」の起源と歴史
日常会話ではあまり登場しないが、政治家や著名人の振る舞いを評する際に使われることのある言葉、”megalomania”(メガロマニア)。この語は、単に「自信過剰」や「自己中心的」であることを指すのではなく、「自分は偉大な存在である」という病的な誇大妄想を意味する。最近ではトランプ大統領がまさにメガロマニアだと言われている文脈をよく目にする。例えば次の記事だ。
(正式に認定:ドナルド・トランプは重度の誇大妄想狂 第47代大統領は、アメリカと世界にとって明白かつ現在進行中の脅威である)
ちなみにmegalomaniaは誇大妄想狂という不可算名詞で、「メガロマニアな人」を意味する名詞はmegalomaniac(メガロメイニアック)となる。もはや時事ワードの一つとして覚えておくといろんな場面で使えそうだ。
megalomania は19世紀半ばに英語に登場した比較的新しい語である。その構造を分解すると、megalo-はギリシャ語のmegasに由来し、「大きい」「偉大な」という意味。-maniaはギリシャ語のmaniaに由来し、「狂気」「熱狂」を意味する。だから、”megalomania” は直訳すると「偉大さに取り憑かれた狂気」、つまり「自分が非常に偉大な存在であるという妄想」となる。
この言葉が一般に使われ始めたのは、19世紀の精神医学の文脈においてだった。精神疾患の分類が盛んに行われるようになった時代、”megalomania” は精神分裂病(現在の統合失調症)や躁病の一症状として記述された。当初は純粋に医学的用語であったが、20世紀以降になると、比喩的・批判的表現としても用いられるようになった。とりわけ政治指導者や企業のトップなど、権力を持つ人々の極端な自己顕示的行動を指す言葉として機能し始めたという。
似たような印象を与える言葉に “narcissism”(ナルシシズム) があるが、この2つは明確に区別されるべきである。narcissismは、自己愛が強すぎる状態。鏡を見るナルキッソスの神話に由来し、「自分自身に酔いしれる」イメージ。対してmegalomaniaは、自分が他人よりも「偉大」であるという、より誇大的かつ妄想的な信念だ。言い換えれば、ナルシストは「自分が美しい」と思い込む人であり、メガロマニアは「自分が救世主であり、世界を導く存在」と信じている人、ということになる。
現在では “megalomania” は主に比喩的・批判的な文脈で使われることが多く、正式な精神科用語としてはあまり使われないようだ。「権力への執着」「自己の偉大さへの過信」「現実との乖離」を指摘する語として、政治・ビジネス・芸術の分野において強烈な批判を込めて使われることがある。歴史的にはナポレオン・ボナパルトやアドルフ・ヒトラーがmegalomaniacと評された。現代でも冒頭で触れたとおり大国の大統領がmegalomaniacと批判されている。その背景には、彼らがしばしば「自分の使命」「絶対的な正しさ」を妄信し、現実の限界を超えた判断を下すことがある。
もちろん、こうしたラベルが適切かどうかは慎重な分析が必要だが、言葉としてのmegalomaniaには、そうした狂気じみた誇大さと権力欲が色濃く反映されている。
この狂気じみた誇大さを意味する言葉と、ドラキュラ伝説で知られるルーマニアの地名でハロウィンやホラーのイメージがあるTransylvania(トランシルヴァニア)を掛け合わせたのが、超人気インディーゲーム「UNDERTALE(アンダーテール)」のサンズ戦で使用される名曲「MEGALOVANIA(メガロヴァニア)」だ。
ウィキペディアによると、もともとは1994年にスクエアから発売されたゲーム「LIVE A LIVE」のボス戦曲「MEGALOMANIA」に由来するという。Megalomania×Transylvaniaで「メガロヴァニア」となった。この組み合わせにより、「MEGALOVANIA」には「誇大妄想の地」や「狂気の領域」といったニュアンスがある。余談だが、UNDERTALEの作者トビー・フォックスは任天堂のMOTHER2にも影響を受けたと公言していて、世界のゲーム文化やゲーム産業に対する日本の影響力の高さが分かる。megalomaniaという言葉を覚える際には、megalovaniaという単語も覚えておくと、海外のゲーム好きな人々との会話も弾むこと請け合いである。