トランプ大統領のおかげで世間を大騒がせさせている「tariff(タリフ)」という言葉。現代では「関税」や「料金表」という意味で使われる。特に国際貿易の文脈で頻出する用語だが、その語源をたどると、意外にも中世の地中海世界にまで遡ることができる。
「tariff」の語源は、アラビア語で「告知」「知らせること」といった意味を持つ語にある。そこから派生して「価格や料金の告知」を意味するようになった。
この語が中世ヨーロッパに伝わる過程で、まずはイタリア語に取り入れられた。特に海上貿易で栄えたジェノヴァやヴェネツィアのような都市国家では、イスラム世界との商取引が活発であったため、アラビア語の語彙が多く流入したのである。イタリア語では tariffa として定着し、やがてフランス語 tarif を経て、英語にも tariff という形で取り入れられた。
初期の「tariff」は、現在のように「関税」だけでなく、広く「料金表」や「価格表」という意味で使われていた。つまり、単に物の価格やサービスの料金を記したリストを指していたのである。
しかし、特に18世紀以降、各国が貿易政策を強化する中で、「tariff」は「輸入品に対して課される税(=関税)」という特定の意味を強めていった。こうした文脈の変化により、現在のような専門用語としての使用が定着したという。
また、「tariff」の語源については別の興味深い説もある。スペイン南部、ジブラルタル海峡近くの港町「Tarifa(タリファ)」に由来するという説である。9世紀、この町では通行料が徴収されていたとされ、それが後に「関税」一般を指す言葉へと発展した、という仮説だ。この説は語源学的にはやや信憑性が低いとされるが、地中海貿易の歴史とのつながりを感じさせる魅力的な逸話である。
「tariff」は、単なる経済用語ではなく、アラビア語とラテン語圏を結ぶ商業の歴史、そして言語交流の足跡を伝える生きた証でもある。その語源をたどることで、現代の言葉の背後にある壮大な文化交流の物語が浮かび上がってくる。
それにしてもトランプ関税はどこへ行くのか。世界史的な響きを持つタリフという言葉が飛び交う現状に、我々は今、大きな世界史の流れの真っ只中にいることを痛感させられる。